和解の手管

和解の手管



「でも、それでは苗字家にメリットはないのでは?先程仰っていた様に、上への意見は言い難いとのお話……そんな中この縁談を断る事と、私たちが月に一回ほど訪れることが引き換えになるとは思えませんね」

まだ何か裏がありそうだと言外にいう夏油様に、勿論納得はできた。
それも想定内だった……私の様に、生きるための制約を設けられた事がない人からすると、確かにその答えにたどり着いてしまうだろう。
でも、そうではない、そうではないのだ。

「いいえ、私の中ではメリットがあります。それに、このお話が出た時から、破談のお申し出があれば協力をしたいと思っていたのです」
「それはなんで?」
人を試すような笑みを向けて、五条様はあっけらかんと聞いてくる。
一度口にしようとして、はくりと音を立てるように閉じた口を、今一度持ち上げる。


「……お二人が私と同じ歳だからです」


「それだけ?」
拍子抜けとでもいうような反応に、此方が少し困ってしまう程だ。
「偽善……と言われても構いません。お二人の年齢で――特に夏油様は、こういったモノに余り縁がないと思いましたので、お嫌だろうなと」

「ハハッ、ほんとに偽善だな?知りもしない男たちのためによくやれるよ、自分だって嫌な癖に」
ジトリと横からの目線が向けられていることを気にもせず、五条悟という男は核心をついてくる。
揶揄っているのか呆れているのか、如何にも謀りかねる顔をするお方だ。
「私は元より、”そういった”定めですので、疾うの昔に覚悟はできております」
「ふーん?でも俺らに同情はできちゃうんだ」

「……苗字家としては、様々な理由からその時代の特に優秀な方と婚姻を結ぶ事を念頭に置いております。なので、大抵お相手は年上の方が殆どとなります。けれど、何の因果か私には2人も優秀な同い年の方が候補としてあがりました。それは、こうして同い年の方とお話できる機会が得られたということです……こんな喜ばしいことはありません」
そう、予想していた未来より、とっても良い未来だった。
古い頁を久々に開くように、過去の私の気持ちを思い起こすが、決められた相手と粛々と婚姻を結ぶだけだと思っていたのに、だ。
「なので、私としてはお話が出来るだけで十分なんです。ならば、それを叶えてくれるお二人には、私にもできることをしたかったんです」

ですので同情とは違いますかね、と薄く笑えば、2人にもやっと裏がないことが伝わったのか、再度少し表情が緩んでいるのが見て取れた。

「此方としては、元々お断りをさせていただく心算だったので、願ってもないお話です。ぜひお願いしたいですね」
にこりと夏油様は笑ってくださった。なんてことはない、自分にデメリットが少ないならば頷いて下さるだろうことは解っていたのだ。良かった……と胸をなでおろす。
「五条様はいかがでしょうか」

「……いいよ、代わりに次から様呼びはなしな」

少し釈然としない顔をしながら、口元だけをにやりとさせて彼も了承してくれた。
手間取らせてしまったのに、理由が取るに足らないことで呆れられてしまったのだろうか。
しかし、私個人としてはこれからのことを思うと少し楽しくなってくる。その程度の人生なのだ。


理解はされなくてもいい、ただ、お二人の”普通”を理解していきたいなと願うばかりであった。



「では、”契約成立”ですね」